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「占い師かしゆか」 弐の零

「幕間」



$そうでない人、ひげくまの                            Perfume狂の詩(うた) 



 ノッティーナ・オオモトことオオモトアヤノ、つまり私ね、今、めっちゃ落ち込んでんの。
 なんでかって?
 ついに、ママに……マダム綾香に最後通告を受けてしまったノダ。
 あまりの客の少なさに、決められた部屋代も払えなくなって、呼び出しをくらっちゃった。
 だからもうヤメたいんだけど、と言いかけるのも聞く耳持たずって感じで。
 あなたは、カシノさんの助手になりなさい、だって!!!!!!
 ありえない。
 ありえないよー。(泣)

 うちのママは、人の話を聞いてんだか聞いてないんだか、ふわふわした感じで。
 話はあっちこっちへ飛ぶし、よく分からない擬音語は使うしで、知らない人はぼんやりした人だなあと思うみたい。
 とんでもない。
 あれは、ママ独特の話術で、ああやって自分のペースに引き込んで、自分の知りたい事は全部聞き出し、知らないうちに自分の言い分を通しちゃうワザなんだよね。
 まるで、「天然風」に振る舞ってると、相手はついつい正体をさらけ出しちゃうみたい。
 それを見ない振りして、しっかり見てて、絶対忘れない。
 私はママの事が大好きだけど、でも、絶対! 敵には回したくないよ。
 つまりは、私はママには逆らえないってわけ。好きだし、怖いしね。

 でもなー。あのカシノさんの助手だけは勘弁してもらいたいなー。

 で、重ーい足取りで、カシノさんの部屋を訪れたのだった。

「あ、来た来た」カシノさんは、なぜか上機嫌だった。「あなた、これから私の事お手伝いしてくれるんだって? よろしくね」
「そう……。でも、カシノさんがそんなに喜ぶと思わなかった」
「ユカでいいよ。別に私があなたを雇うって訳じゃないんだし。あくまで、対等、ね」
「へ? どういう意味?」
「マダム綾香先生から電話でね、あなたが困ってるって聞いたよ。隠さなくっていいよ」
「は?」
「お金がいるんだってね……。で、テナント料が払えなくなったんだって? で、綾香先生が固定給を払ってあなたを雇って、あたしのヘルプとして使ってくれって。
 正直助かるわーマジで。学校でこっち来れないとか試験とか、結構これから忙しいのよ。あなたが代理で仕事してくれて、見料は私が九割、綾香先生が一割。
 最初は、あなたが助手だからって言われて、見料半分取られるのかと思ってさ、ゲッと思ったんだけど、綾香先生って天使みたいな人だね」

 なにそれ。
 聞いてないんだケド。ていうか、ありえないんですケド。
 なに勝手な話してんだ、うちのママは! 私を使うだけ使って、金は自分が取るってか!
 唯一の救いは、このユカから使われる立場じゃなかったって事だけだよ。

「あ、じゃあ、まず、お茶入れてきてくれる?」

 いや、それも怪しいな……。



「綾香先生ってさ、ここで仕事始めた時に会ったきりだけど、なんか、可愛い人ね」
 ユカは(私は意地でもこう呼ぶ事にした)上機嫌のままで、おしゃべりを続けた。
「電話掛かってきてさ、最初は誰だか分かんなかったけど。……あたしは、あのひとタダモノじゃないと思う。なんだかおっとりしてるようで、話の筋道は、ピッシリ通ってるもんね。
 賢い女性だと思ったな。さすが、占いで事業起こすだけの事はあるね」
 ……電話で話しただけで、ママの本性見抜くなんて、アンタもタダモンじゃないよ。
 一度対決してくれないかなあ、名勝負になると思う。何の勝負か知んないけど。
「で、これからのことだけど」ユカは、ちょっと改まって言い始めた。「実はここだけの話、占いに関してはまだまだなんだよね、あたし」
「あ、そうなんだ……」やっぱりね。
「でさ、あなたは、マダムが言うには、一通り知識と技術はあるって聞いた。だからさ、面談は私がやるから、あなたはデータを元に占って、私に回してくれないかな」
「え? だって」
「こう言っちゃ何だけど、あなた、面談は苦手でしょ? 持ちつ持たれつよ」
「はっきり言うなあ。……そうだけどさ」
「じゃ、いいよね? あたしのPC使っていいから。あなたの占いに必要なソフトウエア、インストールしといて」
 これは言い換えれば、自分のPCを占いに使えるマシンにするための準備をしろ、ということだ。
「いいけど、そのかわり、もしフリーソフトがなかったら、経費は払ってね。それと、私の使い勝手がいいように、シェアさせてもらう。そのうち、自分のPC買ったら、全部そっちに移動する。それでいい?」あたしだって負けないぞ。
「わかった。ていうか、早く自分の買ってね。学校で使わなきゃならないから。
 あ、明日は朝からこれ持ってくから、最低限必要な用意、今からやってくれる? そうね……六時くらいまでにね」
 思わず、私は時計を見た。午後一時半。
 やられた……。

 何とか、顧客の個人データをデータベース化し、生まれた日の天球図を描いて計算し、ホロスコープをヴィジュアル展開でき、基本的な占星術的判断が出来て、相互に情報が自由に参照出来るようにしたのは、午後五時四十八分だった。
 こう言うと、私がまるで仕事ができる人みたいだけど。
 何の事はない、マダム綾香が開発したソフトをインストールしただけのことさっ。
 ていうか、だったら時間掛かり過ぎでしょってことだけど。だってさ、Macなんて使い慣れてないんだもん。
 なんて自分に甘ーく言い訳してるけど、もちろんユカにはそんな内幕をバラすことはしませんよ。
 めっちゃ大変だったって言っとくに、決まってんじゃーん!!!!!!

 さて、てんやわんやしてたけど、今日は珍しくお客さんは来なかった。まあ平日だからね。
 なんて言うと、またママに叱られるけど。
「お疲れさま。助かった。さすが、先生が言うだけの事あるね、頼りになるわあ」のんきにノビをしながら、ユカが言った。
 ま、私も誉められるのは、マンザラじゃないけど? もっと誉めて誉めて。
「実際お客さんが来てみない事には、分からないけどね」
 ……一言余計じゃ!

 窓から、西日が差し込んでいる。
 もう日が暮れかかってる。最近、少しづつ日暮れが早くなってきた。
 私は、帰り支度をしながら、ユカの占い部屋の中を見回した。これが、今日から私の働く場所か。……って、隣に来ただけだけど。
 しかし殺風景な部屋だな。女性らしい飾りも、占い師らしい神秘的な置物も、何も無い。
 安そうな本棚に、いくつか専門書が並び、スキマにはブックエンド代わりに百均で買ったポリプロピレンの収納カゴやCDケース。
 唯一目を慰めるのが、机の上の小さなサボテンと、窓際に置いた……あれはなんだろう?
「ああ、あれ? あれにはアリが巣をつくってるの。小学校の時にやらなかった? ああいう薄いプラスチックのケースに土を入れて、アリを何匹も入れとくと、巣を作るのね。で、断面が見えるっていう」
「巣? 無いよね?」
「うん……まだ作ってくれないんだよね。女王アリを入れないとダメなのかな?」
 知らんがな!
 私は呆れて、何も言わなかった。

 その時、トントン、と控えめなノックの音がした。
「どうぞ!」ユカが声をかけると、そこには誰もいなかった。
 いや、目を下に向けると、やっぱりいた。小さい男の子。小2? 3? それくらいの。
「ノロイを払ってください」男の子が訴えてきた。「僕の家、ノロワレたんです」

 呪い? 
 ……またまた、厄介な客が来ちゃったな、コレ。



めたぼedgeさんの挿絵を使用させて頂きました。事後承諾ということで、すみません。
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