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Perfume童話集/三人のお姫様とさびしい幽霊 5




 古い石造りの塔のてっぺんに住む、未練がましい男爵の幽霊。
 三人の王女達は、彼に「明日の晩、かつての恋人である、今は亡きひいお祖母さまの魂を呼び出して、逢わせてあげる」と、無茶な約束をしてしまいました。

「かしゆかお姉様、ひいお祖母様の魂を降ろす事の出来る霊媒師と、どこでお知り合いになったのですか」のっち姫が興奮して訊きました。
 次の日の夜、再び塔の前にかしゆか姫とのっち姫が立ち、あ~姫が来るのを待っているところです。
「え? そんな霊媒師なんて、知らないわ。……お姉様、遅いわね」
「へ? じゃ、どど、どうするん」
「しっ! 大声を出さないで、自分で考えてみなさい」かしゆか姫が、のっち姫を小声で叱った時、木陰からあ~姫が現れました。
「あ~姉様、ここです。どうしたのですか、お顔の色が……」かしゆか姫は、あ~姫の青ざめた顔を見て、気遣いました。
「大丈夫です、昨日からあまり寝てないだけです。さ、参りましょう」
「あ~姉様、もしかしてお姉様がひいお祖母様の霊を、降ろすのですか?」のっち姫が小声で言いました。「確かに、お姉様はひいお祖母様と血のつながりが深いようですものね。それに、昔から霊感が……」
「という風に、あの女たらしの男爵様も思うでしょ? そこが狙い目」かしゆか姫が、小声で答えます。「ですから、あ~姉様にお芝居をしてもらって、上手いこと納得させて、お引き取り願おうと……あのねえ、私、昨日そう言ったつもりだったんだけど」
「あ、あの時、そんな話をしてたんだ! 今ひとつ、よく分からなかったけど、賢いかしゆか姉様の言う事に間違いはないから、適当に返事してた」ポリポリと頭をかくのっち姫。
「相変わらず、可愛らしいですね、のっち姫は」あ~姫がニコリと笑って、のっち姫の頭を撫でました。
 のっち姫は赤面してしまいました。

 真っ暗な部屋の中、のっち姫が、声を掛けました。
「男爵、いますか? いるなら出て来なさい」
『これはこれはお姫様方。ご機嫌うるわしゅう。今宵も良い夜ですな』
 のっち姫が通訳すると、かしゆか姫は、
「調子が良いですね、そんなだから女性から恨まれるような事になるんですよ」と言いました。
「それはちょっと言い過ぎですよ。貴族ともなれば、このような挨拶もするでしょう」あ~姫がなだめました。
「お姉様、私は口のうまい殿方が嫌いなのです」かしゆか姫がキッパリと言い放ちました。
「とにかく、始めましょう」のっち姫が、はりきって宣言しました。

 ろうそくの揺れる中、あ~姫を椅子に座らせ、かしゆか姫が怪しげな儀式を行いました。

 やがて、あ~姫が、ゆっくりと首を垂れ、部屋の中はしんと静まり返りました。

「我らの先祖、尊き王女様、アリシア姫よ。この子孫の体を使いて、語りたまえ」かしゆか姫は、でたらめなマジナイとともに、こう語りかけました。
『……誰です、私の眠りを覚ますのは……』
『あ、アリシア姫か? 私だ。あなたの恋人、イワノフだ』

「そんな名前だったんだ……」かしゆか姫が思わずつぶやきました。

『イワノフ? ああ、あなたでしたか』なぜか冷ややかな口調で、〈アリシア姫〉が答えました。『今さら、なんの御用?』
『私は、あなたにわびを言いたかったのだ。誤解とはいえ、あなたを悲しませてしまった事、大変申し訳なかった。この通り、心からお詫びする』
『誤解? 何が誤解ですか?』
『あの女の事だ。あれは、行き違いなのだ。すでに終わったことが、こじれてしまい……』
『あなたが昨日、この娘達にした話を、私も聞いていましたが』〈アリシア姫〉がさえぎりました。『よくもあんな嘘ばかり、並べられたものですね』
『何? 嘘だと? ……じゃあ言うが、こんな霊媒ごっこなぞ、初めから信じてはおらん。お前さん達こそ、私に嘘を言っているのだろう』

「……って、マズい、バレちゃってる。どうしよう、お姉様」のっち姫が、通訳した後、あわてて付け加えたました。

『お芝居とは何の事です、イワノフ。いや、こう呼びましょうか、ウシガエルさんと』
『ええ? そ、その呼び方は!』
『そうです、私しか知っている者はおりません、イワノフ。あなたは、自分が美男子ではない事を、たいそう気に病んで、まるでウシガエルのようだと私に言いましたね。そして私は……』
『そう、あなたは、ウシガエルというものを見た事はないが、私(イワノフ)に似ているのならきっと可愛らしいカエルに違いない、と言って下さった……』

「まさか、本当にお姉様がひいお祖母様の魂を」かしゆか姫は驚きのあまり、かすれた声でささやきました。

『あなたは、男爵の身分でありながら、その自覚もなく、伯爵や公爵に対して引け目ばかり感じていました。また、容姿に自信がないゆえに、結婚相手も決まらないと嘆いていました。
 しかし私は、そんなあなたが、実は教養や武術に優れ、何より大変善良で正義感にあふれている事を知り、心から愛したのです』

 そう語りながら、あ~姫は閉じた目から、涙を流していました。

『なのにあなたは、私との関係を続ける事を恐れ、逃げてしまったのではありませんか』
『そうです、その通りだ。私のような醜男で、男爵とは名ばかりの貧乏貴族を、あなたが本気で相手にして下さっているとは、どうしても信じられなかった。
 現に、私が行方をくらました後、あなたは他の国の王子と結婚したではないか』
『それは……あなたが私を捨てたと思い、嘆き悲しんでいるのを見て、お父様が勝手に縁組みしたのです。その後、あなたが身投げしたとの知らせを聞きました』

 ついにかしゆか姫の堪忍袋のワイヤーロープが、音を立てて切れました。
「ああもう、黙って聞いていれば何と情けない! あなたはそれでも男爵、いや男ですか! あなたの気持さえしっかりしていれば、二人は幸せになれたのですよ。容姿がウシガエルでも何でも、アリシア姫様はあなたを可愛いと、愛してると言っていたのに」
 思わず手を振り上げたかしゆか姫に、あわててのっち姫が、
「お姉様、私です! お気を確かに! ……でも、私、この方の気持が、少しだけ分かります。私もお綺麗なあ~姉様や、女らしいかしゆか姉様に比べて、こんな男のような顔で、がさつに生まれついてしまって。こんな私が、立派なドレスを着て舞踏会に出たりしたら、まるで道化のようですもの。もし今どなたか立派な殿方に求婚されたとしても、にわかには信じられません」そう言って、のっち姫は悲しい顔をしてうつむきました。
「ああ、のっち、あなたがそんな風に思っていたなんて」かしゆか姫は涙ぐみ、のっち姫を抱きしめました。「あなたは、誰よりも美しい顔をしています。私など、いく度あなたをうらやんだ事か。もっと自分に自信をお持ちなさい。それに、姉様も私も、あなたが愛おしくてならないのです。可愛い妹ですもの」
「お姉様……!」

『そうです、私もあなたが愛おしくてならなかった。どうしたら、あなたに信じてもらえたろうと、ずっと悔やんでいました』〈アリシア姫〉が静かに語り始めました。『でも、それは間違いでした。この悲しい出来事は、私のせいでも、誰のせいでもない。ただ、そういう運命だったのです』
『いや、違う!』気を取り直したのっち姫が、通訳を再開しました。『先ほどそこの怖い姫が言われた通り、私一人の責任だ。私さえ勇気を出して、国王陛下に許しを乞えば良かったのだ。もし、お怒りに触れて首をはねられたとしても、あなたの心を失うよりはずっとましだった』
『ああ、イワノフ、よく言ってくれました。では、私は、あなたの愛を失ったのではなかったのですね』
『もちろんです。例えこの身は亡霊に成り果てようとも、あなたへの愛を永遠に誓います』
『では、天界でまたあなたとお会い出来ますね』
『ああ、ではお許し下さるのですか! 良かった、何という喜びだろう! 魂が溶けて消えるほどだ!』

 そう叫ぶと、今までそこにあった重苦しい何かが、すっと消えるような気配がしました。
「あ、あの方がいなくなりました。急に光に包まれて、消えてしまって……」のっち姫が振り返りました。「きゃあ! お姉様?!」
「どうしたのです?」かしゆか姫が、あ~姫の元に駆け寄りました。
 あ~姫は、床に倒れ、気を失っていました。

 その顔には、天使のような微笑みが浮かんでいました。



〈つづく〉




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1 ■無題

 ひっぱりますね

2 ■Re:無題

>ちこにゃんさん
終わりました。
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