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- 2011/02/24/Thu 08:53
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- Perfume / S・Stories
事件の前日。
占い師カシノユカの部屋に、女性客が訪れていた。
思いつめた様子のその女性は、持っていた地味なバッグをつぶさんばかりに握り締め、テーブルの一点を見つめていた。
「彼と決着をつけたいのだが、その前に占ってほしい」という依頼であった。
「決着とはなんですか?」と、カシノユカが尋ねた。
「別れるか、付き合うか、はっきりしてもらうということです」その女性客が、つぶやくように言う。「あたし、彼が他の女と一緒にいるところを見たんです。一度だけじゃなくって何度も何度も。あたしといるときは上の空のくせに、その女には、やたらに機嫌とってて、別人みたいだった」
「ええ」
「昨日、あたしついに我慢できなくなって、彼に言ったんです。『あなたが先に死ぬのは嫌だ。どっちかが先に死ぬなんてやだ。どうせなら一緒に死ぬ』って。あたし、前からそんな事ばかり考えてて。でも、彼はそうだね、なんて聞き流すんです」
「いきなり過ぎたんじゃないですか? 彼も困ったかも知れませんよ」
「いいんです。とにかく、あたしが真剣だって、彼に分かってもらいたいんです。ちゃんと話聞いて欲しいんです。もし、あたしとの事、軽い気持ちで遊んでいるんだったら……」と言い募り、グッと口を閉じた。
少し異常なほど、思いつめているようだった。
カシノユカは、一応形ばかり占って、過激な行動に出ないよう促したつもりだった。
だが、どうしても胸騒ぎがしてならず、彼女がいるはずのこの店にやってきたのだった。
事情聴取があらかた終わり、鑑識課員も撤収し始めていた。
座席周辺はもちろん、トイレや、被疑者山下祐希が入るはずのないキッチンの隅々まで、凶器を探したが、発見できなかった。
この居酒屋は、古民家風の造りで、店内の装飾品やレジ回りに通路、トイレ、座席、照明、食器にいたるまで古めかしい物で統一していた。
電話まで黒電話にしているほどだった。
携帯を持たないカシノユカは、その黒電話のダイヤルを回していたが、長い爪のせいでやりにくそうだった。
電話の向こうの人と言葉を交わし、カシノユカが電話を切った。チン、と涼しい音がした。
「生え際さん」
「速際だ」
「はやぎわさん、ちょっとお話があります」
無人になった居酒屋の暗がり。
明け方近くになって、通用口からガチャガチャと物音がした。
「おいまさか……」ヒソヒソ声で速際警部補が言う。
「しっ。もうちょっと待ってください」
カシノユカがささやいた。
店内には松田刑事を始めとして警官が何名か、潜んでいるのだった。
カシノユカの後ろにいる、占い師仲間のノッティーナことオオモトアヤノが、ユカの服をぎゅっと掴んで、
「うまくいきますかね? 一応言われたものは持ってきましたが」と小声で言った。
「もうちょっと……」と言って、カシノユカは、暗がりをじっと睨んでいた。
非常口サインの光がその顔に当たって、陰影を見せていた。
何者かの足音と衣擦れの音が近づいてきた。
「edge〈⊿-mix〉」につづく……。